遠い昔、人々はアメリカに住むと決めた
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Revenge of the Lawn
Richard Brautigan
鈴木訳/リチャード・ブローティガン短編集『芝生の復讐』より
「遠い昔、人々はアメリカに住むと決めた」
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新しい女とやりたいな。そんなことを考えながらぶらぶらと歩いていた。冬の寒い日の午後、頭の中はそんなことでいっぱいで出歩いてたところだった。
向こうから背の高い女が歩いてきた。背の高い男が好きそうな女が。リーバイスをはいた若い獣のようなカジュアルさだ。5フィート9インチ(*約180センチほど)、青いセーターを着ている。締めつけられていない彼女のおっぱいは、波打つように揺れている。
彼女は靴をはいていない。
ヒッピー娘だ。
髪の毛がすごく長い。
彼女は自分がどれだけ可愛いのか自分ではわかっていないように見えた。だがそれがいい。そういう態度がぼくを興奮させる。といっても、ちょうどいま女とやりたいと考えていたところだったので、興奮することは別にむずかしいことじゃないんだが。
すると、予想もしてなかったことが起きた。すれ違うとき、彼女はくるりと振り向いてこう言ったのだ。
「ねえ、わたしのこと知ってる?」
すごい!彼女がぼくのすぐそばにいる。本当に背が高い!
ぼくは彼女をじっと見た。どこかで会ったことがあったっけ?昔やった女、それともただの知り合いか。もしかしたら、酔っぱらったときに口説いた女かもしれない。じっと観察してみた。彼女は若く、美しかった。とびっきりの青い目をしている。でも、誰だったかは思い出せなかった。
「前に会ったことあるわよね?」
彼女はぼくの顔を見上げながらそう言った。
「あんた、なんて名前だっけ?」
「クラレンスだよ」
「クラレンスぅ?」
「そう。クラレンス」
「え〜。それじゃわたし知らないわ」
ほらやっぱり。
彼女の足は歩道の上で冷え切っていて、こっちの方を向いて寒さに背を丸めていた。
「君の名前は?」
ぼくは彼女に尋ねた。口説いてみようか。いや、いまこうして実際に口説いているわけなんだが、じつのところ声をかけるのが30秒も遅かったくらいだ。
「ウィロー・ウーマンよ」
彼女は言った。
「ヘイトアッシュベリーへ行くところなの。たったいまスポーケンから着いたばかり」
「悪いけどいっしょには行けないな」
ぼくは言った。
「あそこはひどいところさ」
「ヘイトアッシュベリーには友達がいるのよ」
彼女はそう言った。
「あそこはひどい場所だぜ」
ぼくがそう言うと、彼女は肩をすくめて自分の足元を見た。そして顔を上げたとき、彼女の目にはひどく親しげな、そして傷ついた表情が浮かんだ。
「これしかもってないの」
彼女は言った。
(着ているもののことを言ったのだ)
「あとは、ポケットの中にあるものだけ」
(そういって彼女は、リーバイスの左尻のポケットをちらりと見た)
「ヘイトアッシュベリーに行けば、友達が助けてくれるのよ」
(そう言って彼女は3マイル先の、ヘイトアッシュベリーの方角を見た)
突然、彼女は落ち着きを失った。どうすればいいのか、わからなくなってしまったのだ。彼女は半歩ほど下がった。
「わたし…」
彼女は言った。
「わたし…」
再び彼女は、冷たくなった足下に視線を向けた。そしてまた半歩ほど後ずさりをした。
「わたし」
「わたし、泣きたくないの」
彼女はいまの状況にすっかりうんざりしていた。帰ろうとしていた。彼女の望み通りには、いかなかったのだ。
「助けてあげるよ」
ぼくは言った。そしてポケットの中に手を突っ込んだ。すると彼女は、まるで奇跡を目にしたかのようにぼくに駆け寄った。
ぼくは彼女に1ドルを渡した。誘おうとしたことなんかすっかり忘れてしまっていた。そもそもの計画ではそうだったのに。
彼女は1ドルももらったことが嬉しくてぼくに抱きつき、キスまでしてくれてる。彼女のからだは温かくて親しさに溢れていた。
ぼくらはうまくいくはずだった。そうなるような言葉もぼくは言えるはずだったのに、ぼくは何も言わなかった。彼女とうまくやれる糸口を見失ってしまい、彼女は美しく去っていった。彼女がこれから会うであろう人々の元に。そしてぼくはせいぜい思い出というゴーストになって、彼女が生きていく人生の中に埋もれていくのだ。
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