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実録・コンパニオン狩り

夕方の東名高速。ぼくと社長のふたりは名古屋に向かってレンタカーを飛ばしていた。

もう十数年も前の話だが、当時ぼくはとあるゲームメーカーに勤めていて、所属は「営業広報部」。すごく小さな、そしてどうしようもないクソゲーばっかり作ってるメーカーだったので、開発と経理以外はぼくと社長、そして専務の3人ですべてをこなしていた。後に会社の株を店頭公開する準備が始まって社長たちが忙しくなり、その業務の一切はまだ若いぼくひとりに託されたりもした。ぼくは社長のお気に入りで、その社長の期待に応えるべく一生懸命働いた。

ぼくらが名古屋に向かっていた理由は大須という電気街で新作ゲームのイベントを行うためだった。デパートやカメラ屋の店頭で新作ゲームのデモを行い、群がるガキどもにゲームを遊ばせるわけだ。つまり昔、高橋名人がスターフォースとかで全国を回っていた全国ゲームキャラバン、まあぼくらの場合はもっと規模の小さいあれのクソゲー版。全国クソゲーキャラバンというわけだけど。

先週の土日にはすでに秋葉原で子供やオタクたちに「このゲームつまんねえな」などといわれながらも大盛況のうちにそのイベントを終えていた。今日は土曜日、明日の日曜日は大須でイベントを行うため、ぼくらは名古屋に前日入りしようとしているわけなのだ。

でもぼくはずっと疑問に思っていたことがあって、車を運転する社長に聞いた。

「あの…社長。今回はコンパニオンを手配してませんけど本当にいいんですか?」

ゲーム大会にはガキどもを仕切る司会進行役が必要だ。別にぼくらがそれをやってもいいのだが、そういうのは若いきれいなお姉ちゃんが適役だし、先日の秋葉原のイベントではちゃんとした派遣会社からそういうプロのコンパニオンを雇ってイベントを行ったのだった。

「うむ。鈴木ちゃん。わし名古屋はコンパニオンいらんゆうたやろ?じつはとっておきの秘策があるんや」

「ハア…秘策、ですか?」

「まあ、わしに任せておけば心配いらんで!ヘッヘッヘ。鈴木ちゃん、昨日準備で徹夜したから眠たいんやろ?名古屋に着くまで寝ててもええで」

岡本社長はぼくの仕事の師匠だ。まだ社会経験の浅いぼくはこの人から仕事のすべてを学んでいた。だからこのときも社長が自信を持ってそういうので、ぼくは安心して助手席で眠りについた。

「鈴木ちゃん。着いたで」

ぼくらは名古屋の繁華街、錦のホテルにチェックインした。

「さて、鈴木ちゃん。いまから明日のコンパニオンを現地調達するで!」

そう叫んだ社長がぼくを連れて行った場所は、なんとホテルにほど近いキャバクラだった。社長はこのキャバクラで遊び、また同時にそこのキャバクラの姉ちゃんたちに明日のイベントのコンパニオンをやらせるつもりでいたのだ。さすがは社長だ。ぼくの師匠だ。遊びと仕事を両立すること、ぼくはそんな大事なことをこの社長から学んでいた。

「王様ゲッエ〜ムッ!」

キャバクラ魔王の異名をもつ社長は王様ゲームも強い。キャバ嬢たちは次々と王様である社長の命令を聞くハメになった。

「じつは明日、我々は大須でゲームイベントをやるんやけどな。どや?バイトせえへんか?2〜3時間で1万円あげるで。なあに簡単なバイトや。子供相手にチラシ配ったりすればいいんや」

「やるやるぅ!」

キャバ嬢たちも思わぬ美味しいバイトの誘いにハイテンションで黄色い声をあげた。それにしてもさすがは岡本社長だぼくの師匠だ。普通、ちゃんとしたきれいなコンパニオンを派遣してもらうには2万円以上もかかる。それを社長は半額以下で手に入れたのだ。浮いた分は今夜の遊び代というわけで。ぼくの社長は天才なのだ。

「鈴木ちゃん。とりあえず5人来るいうで。ま、そのうち半分こなくても2人もいればじゅうぶんやろ?どや?鈴木ちゃん。わしの秘策」

「社長、お見それしました。一石二鳥の秘策ですね!」

「そうやろそうやろ。じゃあ鈴木ちゃん、そろそろヘルスでも行くか。フヒヒ」

明日のコンパニオンのバイトに名乗りを上げたキャバ嬢たちには時間と待ち合わせ場所を伝えて別れ、ほろ酔いのぼくらはその後マットヘルスの店で名古屋の夜を存分に楽しんだ。

しかし次の日。イベントが始まる時間になってもキャバ嬢たちはひとりも来なかった。

「なんやねんあいつら!ひとりもけえへんやんか!」

カンカンに怒る社長。しかしお店に場所を借りた手前、いまさら中止にするわけにもいかない。とりあえずぼくが司会進行、社長がビラ配りをしてまったく盛り上がらないイベントを粛々と行った。社長はえらく不機嫌な顔で、ぼくはしょんぼりとした顔で。

日曜日の電気街。まわりの店では他のメーカーが派手なイベントを行っていた。そのなかでも富士通は、美人のコンパニオンを何十人も使った大々的なイベントを行っていた。さすがは大企業、相当お金がかかっている。ぼくらのようにコンパニオン代をケチってキャバ嬢にやらせようとした弱小メーカーとは企業理念、コンプライアンスがちがう。

でもぼくは休憩中、そのなかの何人かと親しくなり、仕事が終わったらいっしょにご飯を食べようという約束を取りつけた。ぼくたち東京から来たんだけど、この後どうかな。ご飯おごるから。ね?「うん。行く行くう!」

「社長、元気を出してください。さっき富士通のコンパニオンたちと飯を食う約束を取りつけました」

「そうか!でかした鈴木ちゃん。ま、腹の立つことは忘れて、今夜はそのギャルたちとエビフリャーでも食うかエビフリャーでも。フヒヒ!」

とたんに社長の機嫌は直った。よかった。社長の機嫌が直るんだったら、ぼくは100人の女にでも声をかけるつもりだ。それがぼくの、会社への忠誠心というやつなのだ。

しかし、夕方約束した時間になっても富士通のコンパニオンたちはひとりも来なかった。

「鈴木ちゃん…もう東京に帰るで…」

「えっ、でもまだエビフリャーも味噌カツも食べてませんよ?」

「こんなケッタクソ悪い土地にこれ以上いられるか!もう撤収や撤収!」

ぼくが仕事の師匠である岡本社長から学んだ教訓は、まずキャバ嬢をコンパニオンにするのは無理だということ。それから名古屋の女は嘘つきだということ。そのふたつだ。

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