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早く家に帰りたい【HOMEWARD BOUND】

その日ぼくは原宿駅の改札を出て信号を渡ったところ、竹下通りの入り口に立っていた。待ち合わせで人を待っていたんだ。ぼくは約束の時間よりもずっと早くその場所に着いた。そしてなにをするともなくただ立っていた。そのときの時間はまだお昼というには早い、ぼくの区分では朝と呼べるような時間で、定期的に改札口からたくさんの人たちが吐き出されていたからやっぱり朝なんだと思う。彼らは足早に信号を渡ってそれぞれの職場へと向かっていた。これから出勤なのだ。

そんな駅から吐き出される人たち、そして数は少ないけれど逆に駅に向かって歩く人たち。原宿らしい格好をした(ぼくにはそうとしか表現できない)カラフルな女の子が多かった。彼女たちはゆっくりと歩いて駅に向かう。これから家に帰るのかどうかはわからないけれど、会社に行くんじゃないのは確かだと思う。

そんなふたつの流れに逆うようにその場所につっ立っている人間がぼくで、ぼくのほかには数人、やっぱり誰かを待つように立っている人たちがいる。駅の前というのは当然至極、待ち合わせの場所なのだから。

その中でとても目立つ、別の種類の人間がもうひとりいた。年は40ぐらいだろうか、こじきみたいな汚い格好とも言えるし、でもそれがおしゃれだと言われればそうなのかもしれない。薄汚れたジーンズにハットをかぶって、そこからチリチリとパーマのかかった長い髪が垂れている。彼は駅から吐き出される流れと駅に向かう流れをクネクネと避けて、立っている人から人の間を定期的に移動していた。話しかけてはみんなに無視されているようだった。

ぼくはそんな彼のことをずっと見ていた。すると彼は、ぼくが彼を見ていることに気づいた。一瞬、どうすればいいのか戸惑ったみたいだったが、意を決したようにぼくのところへと近づいてきた。

「あのですね、いま、だいじょうぶですか?ぼく、ミュージシャンをやってるんですけど、ちょっとぼくの話を聞いてくれますか?」

男はずいぶんと背の低い男だった。小さい。でも、確かにミュージシャンと言われればそんな雰囲気を持った男だった。ただ、ミュージシャンといっても誰かのバックで楽器を弾いてる、スタジオミュージシャンというような感じ。少し気の弱そうな男だった。何か人々にお願いをして回ってるようだったし、それは演技かもしれなかったが、少なくとも喧嘩が弱そうだったのはまちがいない。というのは、さして喧嘩が強くないぼくが「なんか面倒なことになったら、こいつはぶん殴ってもだいじょうぶだな」と一瞬で判断したから。男はそういうの、一瞬で判断するものだ。

「いいですよ」ぼくが彼の存在を否定しなかったことに、彼の目は輝いた。そして続けてその不幸な身の上をぼくに訴えてきた。

「ぼくですね、夕べ渋谷で飲んでたんです。久しぶりだったから、すごい飲んじゃったんですね。そしてわけがわかんなくなったところで黒人に声をかけられたんです。すごい大きい黒人なんです。黒人が言うんです。うちの店で飲まないかって。ぼく、それで行ったんですよね。そしたら、お金ぜんぶ盗られちゃったんです。財布の中身ぜんぶです。それでぼく、家に帰れなくなっちゃって、あの、それで必ず返しますから、本当に必ず返しますから、電車賃を貸してもらえますか?」

ああそうか。それで彼は人に話しかけては無視されていたわけだ。ほとんどの場合、彼がそんな不幸な話を切り出して懇願する前に無視されてるみたいだったけれど。

ぼくはその背の低い、自称ミュージシャンの男に質問した。家に帰るのにいくら金が必要か。すると2千円だという。ずいぶん高いねというと、ぼくの家は遠いんです、真鶴にあるんですという。確かに遠い。交番には行かなかったのと聞くと、交番ではていよくあしらわれたというのだ。お金も貸してくれなかったそうだ。というのも、彼はブラジルだかペルーだかとのハーフで(そのへん、聞き流してしまったのだけれど、南米だということはまちがいない)一度、別の国で不法滞在をやって警察のデータベースに載ってて、それで睨まれてて、警察は冷たくて、お金は貸してくれなくて、絶対ぼくなんかの相手はしてくれなくて、とにかく困ってるので2千円貸してください、お願いします、誰も貸してくれないんです、このままじゃ家に帰れないんです!

かわいそうに。不幸な男なのだ。ぼくの顔を見た彼は、さらに目を輝かせた。誰も貸してくれないんです。朝からずっと困ってるんです。もう何十人にもお願いしたんです。でも、駄目なんですう。

彼の顔はくしゃくしゃだ。いまにも泣いちゃいそうだった。ぼくは財布を取り出した。ありがとうございます!必ず返しますから!

ぼくが100円玉を渡したとき、彼は驚いていた。すっかり2千円を貸してもらえるものと思いこんでいたのだ。「えっ?」

「これでね、コーヒーでも飲むといいです。(そう自分で言ったときにぼくは金額が足りないのに気づいた。だから彼にもう20円を手渡した)朝から疲れたでしょ? そんな風に声をかけて。コーヒーでも飲んで休憩するといいですよ」

「…でも…これじゃ足んないんですう」

「いいですか?かわいそうなのでぼくが教えてあげます。お金の集め方を」彼はきょとんとした顔をしていた。

「まずね、借りようとするのがまちがってんですよ。2千円くらいだったら、貸してあげてもいいという人は、いっぱいいます。でもね、返してもらうのが面倒くさいじゃないですか。ぼくだったら面倒くさいですよ。そんな知り合いでもない人とやりとりをするのは。銀行振り込みにしろ、またどこかで待ち合わせて受け取るにしろ、面倒くさい。それに、もし返してもらえなかったら、せつないじゃないですか。信じたのに騙されたことになるから。信じたのに裏切られたら悲しいでしょ?」

「ぼ、ぼ、ぼくはちゃんと返しますよ!」

「だから、借りるんじゃなくてもらう方がいいんです。その方がスマート。それもね、2千円はちょっと高いかも。高い。だから数百円、そう数百円づつ集めるの。それぐらいだったら不幸なあなたに気持ちよくお金を出してくれる人、いっぱいいますよ。」

「でも、ぼくは2千円必要なんですう!家に帰れないんですう!」

「いや、ぼくの方法の方がきっと早く家に帰れるはず。さっきの身の上話で、別にぼくはいいと思う。うん、ちゃんと悲惨な感じは伝わる。まちがってない。あれでいいですよ。うん、いい。そんな感じで数百円づつカンパを募るわけ。その方が早い。わかった?」

でも彼はぼくの言葉がまったく理解できないみたいだった。いまにも泣き出しそうな、そしてどうしていいかわからない、不思議そうな顔をしてぼくのことをじっと見ていた。ぼくがニコッと笑うと、急に突然、何か恐ろしいものに出会ったような顔をして、ぼくから離れていった。そして数メートル離れた、待ち合わせでそこに立っているらしい若い女性に話しかけた。その女性は優しい人のようだった。ちゃんと彼のさっきの身の話をうんうんとうなづいて聞いている。でもやっぱりお金は貸せないみたいだった。首を振っている。「ちゃんと返しますから!」という彼の悲鳴が聞こえてきた。

(@盆@)=3 あいつ、なんでおれの言うこと聞かないんだろう。ばっかだなあ!

【再掲】早く家に帰りたい【HOMEWARD BOUND】(初出2008年7月11日)

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フルムーンパーティの夜

東京サブレinタイ 10

満月の夜 ─ ぼくの泊まっているゲストハウス前に、コ・パンガン(パンガン島)へと渡るトラベラーたちを満載したピックアップトラックがやってきた。今夜はサムイ島北側のビーチからコ・パンガンに向けて次々にボートが出るのだ。ぎゅうぎゅう詰めのトラックはいちばん最後にぼくを拾って、夜の道を船着き場に向かった。

バングラックピアという名の桟橋はもうすでにパーティ気分でハイになった白人旅行者たちでひしめき合っていた。百人は乗れるであろう大きなフェリーに乗り込むときに木製の桟橋がギシギシと揺れると、一斉にみんなで「Oooooh!」と叫んだ。

パンガン島まで30分、高速フェリーは海の上を走る。空には丸く輝くお月様。隣の席の南欧人らしき女の子が肩に「友」というTATTOOをしていた。友。外人って漢字が好きだよな。やがてフェリーはコ・パンガンのハートリン・ビーチに到着した。

今夜はコ・パンガンのフルムーンパーティ。満月の夜のどんちゃん騒ぎ。1万人を超える旅行者たちがオールナイトで踊り明かす夜なのだ。

船が着いたサンセットビーチから、人混みをかき分けて会場のサンライズビーチへと向かう

祭りだ祭りだ

コ・パンガン名物バケツカクテル

この日いちばんのHIPな人たち

サンライズビーチはパーティを楽しむ人々で埋め尽くされている

テクノ、レゲエ、ロック。会場のあちこちで鳴り響く音楽にファイヤーダンス。そして狂喜乱舞して狂ったように踊る人たち。ええじゃないかええじゃないか!踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃSong Song!

ビーチではイギリス人のベンというやつと仲良くなった。ベロベロに酔っているベンはぼくにウォッカベースのバケツカクテルを執拗に勧めた。そしてベンはぼくの名前を聞くと「チョットマテ」と日本語で言い、ひとつひとつ思い出しながらゆっくりと、砂浜にひらがなで文字を書いた。

すずき

おお、ベン。上手じゃないか。ベンにはオーストラリアで知り合った日本人のガールフレンドがいるらしい。来年、日本にやってくるそうだ。ひらがなもその彼女に教えてもらったんだって。

「チンチンチイサイ!」

あ、誰にそんな日本語を教えてもらったんだ?

「ちんちんデカい!」「おまんこしたい」…ベンは今日、また新しい日本語をいくつか覚えたようだ。よかったよかった。ゲラゲラ。

そして鈴木はチルアウト中

みんなもときどきはこんな風に馬鹿になって一晩中踊ったりすればいいんじゃないかなと思う。めんどくさいこと、ややこしいこと、ゆううつなこと、いやなこと、なにもかもぜんぶ忘れて。さあ、あなたも、わたしも、朝までいっしょに踊りましょう。夜はまだまだつづくのだから。

踊り疲れたぼくが空を見上げると、煌々と輝く丸い月が、この島と馬鹿になって踊り狂う人々をいつまでも、いつまでも優しく照らしていた。(つづく)

【再掲】フルムーンパーティの夜(初出2007年9月17日)

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キリストもヒッピーだったんだぜ

(@盆@)/ iPhoneアプリレビューブログ「東京サブタレニアンズ」にようこそ!

今日もとびっきりクールで便利なiPhoneアプリをみんなにご紹介しちゃうよ。というわけで早速、本日のオススメアプリはこれだー。

Tase-A-Hippie

Tase-A-Hippie

カテゴリ:エンターテインメント


【アプリ詳細の翻訳】ハーイ!皆さんはヒッピーに電気ショックを与えたり、与えられたりしたらどんな感じになるか知りたいと思ったことはありませんか?そんな楽しいエンターテインメントなアプリがいまここに!あなたはきっと、宇宙と彼のみすぼらしい犬の“ラッキー”をも好きになることでしょう!宇宙からの130のサウンドとフレーズで、ウッドストックまでの道のりも笑いっぱなしだぜ!HAHAHAHA!

イエス!そう。なんとこのアプリはヒッピーに電気ショックを与えることができる超便利なアプリなんだ。指で画面のヒッピーをタッチすると、ビリビリッと電気が走ってヒッピーがぶるぶる震えながらいろんな言葉をしゃべるんだ。

Tase-A-HippieWhat did I do to you?
(おれが何したっていうんだ?)

Peace, men!
(ピースだぜ〜!)

You can’t stop the movement
(変化は止められないんだ)

Make love, not war
(戦争よりも愛を育もうぜ)

Got any papers?
(新聞もってるかい?)

I know you got donuts?
(ドーナツもってんだろ?)

Do that again but a little lower!
(もう1回やって。次はもうちょっと下を!)

Jesus was a hippie, man
(キリストもヒッピーだったんだぜ)

ヒャッホー!これさえあればいつでもヒッピーに電気ショックを与えられるぜ。う〜んナイス!五つ星!★★★★★

(@盆@)/ みんなも豊かなiPhoneライフを送ってね。シー・ユー!

Text tagged as: suzuki

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